錯誤による契約の無効
不動産を売買する際に交わされる「契約」というものは、とても厳密で、基本的には買い手と売り手それぞれが、内容について責任を問われます。違約金などのペナルティも設定されているので、簡単に契約したり破棄したり、ということはできないようになっています。
しかし、契約に至るまでに何らかの不備があった場合は、救済措置を受けられる事があります。
例えば、広告に掲載されていた土地面積が、実際の面積と異なっていたことから、買い主様が銀行の融資を受けれなくなってしまったら、どうなると思いますか? ローンが組めなければ不動産を購入することはできませんし、過失のあった側の事情で契約を破棄するとなると、手付け金も返ってこないので、二重にダメージです。
そこで買い主様を守ってくれるのが「錯誤による無効」という民法の考え方なのです。
報道された不動産トラブルの事例を引いて、この件についてお話していきたいと思います。
さて、買い主様は売り主業者から、土地・建物を3850万円で購入する売買契約を締結し、手付金を支払いました。 物件の面積は、実際は土地が99.17平方メートル、建物が67.5平方メートルだったのですが、売り主業者の作成したチラシには、土地115.67平方メートル、建物99平方メートルと記載してあり、実際とは異なっていました。土地面積の差異には、私道持ち分の面積が含まれていたのです。 さらに買い主様は、契約締結後の交渉時、売り主業者に対して、決済金の1500万円は、勤務先で溜めた財形貯蓄の500万に住宅ローンから補填して支払いたい、と告げてありました。ところがその後、中古一戸建住宅の場合は土地面積が100㎡以上で有ることが融資条件であることから、銀行の融資が受けられないことがわかったのです。また、財形で支払う予定だった500万円を住宅ローンで補充するための増額融資も、受けられないことになってしまいました。 そこで買い主様は、この売買契約は「錯誤により無効である」ということを主張して、契約時に支払っていた手付金の返済を売り主業者に求めたのです。
買い主様の言い分は、こうです。
「融資が受けられることを前提とした契約であったのに、それを断られたのは重大な見込み違いであり、これは錯誤である。売り主業者にも、支払い計画のことを十分知らせてあったのだから、業者には確認すべき義務があった」
これに対して売り主業者の主張はこうでした。
「資金に余裕のない状態で財形融資を頼りに物件購入をするのだから、融資の可能性または不可能の場合の対策等については当人が慎重に配慮して契約を締結すべき。買い主は住宅ローンを利用可能と即断した点に重大な過失があり、自ら無効を主張できない」
結局、売り主業者は手付け金を返済することになりました。売り主業者の行動には、問題点が3つあります。 まず売り主業者は、実際の土地面積では銀行の融資要件を欠く可能性があるということについて、仲介業者として配慮すべきでした。 また住宅ローンの利用限度額についても事前に調査、説明をすべきでしたし、住宅ローンが成立しなかった場合の処置についても、契約書に記載しておく必要がありました。
土地が広告に掲載された面積の通りであったなら融資はついたのですから、これは買い主様にとって「要素の錯誤」にあたり、売買は無効です。民法上では、要素の錯誤があっても、重大な過失により錯誤に陥った場合は無効を主張できません。このケースでも、買い主様が銀行に確認を行わないまま融資を利用可能と思い、あわただしく契約したことには過失がありました。しかしこの場合、売り主は仲介業者であり、プロです。財形や住宅ローンのことについては一般の人より詳しく知っていますし、そもそも広告に掲載する土地面積を記載ミスしていたことが、事の発端なのです。
さらに売り主業者は、銀行による融資が買い主様にとって最重要事項であることを知っていたのですから、説明や助言に欠けていたことはいなめません。 結果、この売買契約は無効であるとして、裁判所は売り主業者に手付金の返還を命じたのでした。
この場合は売り主が不動産業者だったので、消費者保護の立場からも買い主様にとって有利な判決が出たと言えます。 もしも相手側も素人の売り主様だった場合はどうでしょうか? まったく同じようなケースであったとしても、手付金は違約金の代わりの扱いとなって、返還されなかったと思います。
もちろん、それぞれに優良な業者がついていれば、話は違ってきます。 融資相談もお客様と二人三脚で行い、良い場合、ダメな場合と、あらゆるケースを想定して契約へ進めていきますし、契約書にも万一に備えた「融資特約」をつけ、ローンが借りられなかった場合も、買い主様に負担が行かないようにしておけるからです。
契約、というと専門用語ばかりなので構えてしまいがちですが、あらかじめ銀行や業者に詳しく事情を話して対策を取って臨めば、何も難しいことはありません。 明らかに相手側業者の説明や姿勢がおかしい、という場合はなおのこと、決して相手の言葉を鵜呑みにして泣き寝入りすることなく、仲介業者と力を合わせてご自身の正当な権利を主張していただきたいと思います。
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