引渡し当日に売り主さんが引越ししてなかった!
今回は、とある年のお正月に起きた、新年早々の騒動についてご報告いたします。
他社が仲介する中古一戸建て物件を当社のお客様が気に入り、年内には調査も交渉も済んで、契約も滞りなく終了していました。 そしてめでたく新しい年も明けた、決済の前日。相手方の業者から電話がありました。
「実は、売主さんの引越しがまだ終わっていないんだけど…」 「ええっ!」
私は思わず大声を上げてしまいました。決済とは言うまでもなく、買主様が契約額の全額を支払い終える日で、売主様は、当日に物件の引渡しをしなければなりません。そして物件の引渡しとは、抵当権などの付帯権利を清算し、完全な所有権登記を移転すると同時に、家や土地を相手に明け渡すことを意味しています。
これは契約書に明記されている基本事項で、もちろん背違すれば重大な契約違反であり、最悪の場合、手付金の倍返しと損害賠償の補償をしなければなりません。しかし、それよりも何よりも、買い主様は決済日からすぐの日程で、掃除や引越しの手配をされていると聞いていたのです。私は青ざめました。 まずいことに、通常、契約書に記載される決済の期限には余裕が見てあります。このような事態になった場合に、即手付金の倍返し、損害賠償請求と話が進むことは、売り主様、買い主様双方にとって利益のないことなので、契約上の決済日は現実の決済日より余裕を見てあるのです。 したがって、単純な契約違反という事態でないため、契約書に記載された決済期限までは契約違反ではありませんし、強硬な交渉手段はなにもないのです。こういう時こそ、私たちのような仲介業者の技量が問われると言っても差し支えありません。
私は買い主様に状況を報告すると同時に、売り主側の業者に念書を差し入れるよう要求しました。 なにしろ正式に契約違反になる日付はまだだし、相手は決済日を延長してもなんのペナルティもありません、しかし、現実問題として決済を延長されると、買い主様の掃除や引越しの手配がまったく無駄になる上、ご都合によっては決済に出られないかも知れないのです。そうなれば決済が行えず、なんと買い主様の方にペナルティが発生してしまいかねません。なんとしても、買い主様を全力でお守りしなければなりません。
そこで、とにかく決済だけは予定どおりの日程で行い、「できるだけ予定に近い形で引っ越しまで行えるように努力してもらう」ということになりました。つまり、掃除や荷物入れはある程度できるように家の中を片付けておいていただく、最終的な引越しは数日後とし、その時点で終了していなかった場合は売り主様にペナルティが発生する、ということを明記した念書を作成し、署名押印を頂いたというわけです。
やれやれ、これで解決。
と、思ったら、まだ先があったんです…。 決済の当日。金銭の授受が行われ、登記の書類も完備して決済が終わったあとで、お客様からクレームの電話が入ったのです。
「ほとんど片付けてないじゃない!」
今度青ざめることになったのは、この電話を取った当社の社長です。本物件の仲介を担当していた私が所要で連絡が取れない状態だったので、ほとんど事情を把握していない社長が、あちこちと連絡をとって状況を把握し、たまたま社内にいた営業一人を急遽現場へ飛ばしたのですが、その間も納得のいかないお客様から何度も電話が入ったそうです。
今回のことで、いろいろな人に迷惑をかけてしまいました。もっともご迷惑をおかけした買い主様には、心からお詫びしたいと思います。
以下、反省点です。
- 念書に書かれている「片付けの程度」について、状況の把握と買い主様との確認に時間的に余裕がなく、あまりにドタバタしたせいできちんとできなかった。
- 買い主様を守ろうとする姿勢が強すぎたため、本来なら契約違反とならない決済の延長を考慮せず、結果的に当社が提案した妥協案を買い主様に理解していただくことができなかった。
- 売り主様と買い主様の荷物が混在することで、破損や盗難の責任問題など、さらに事態が悪化する可能性を見落とした。
本来は、2の段階で決済の延期も視野に入れながら買い主様に状況をご確認いただき、一歩づつ慎重に妥協策の提案を進めるべきでした。特に、最終的な引越しの状況を現場でご確認いただかないまま念書を受理して決済をしてしまったのは、大きな間違いでした。
以上、反省して今後このようなことがないように努力したいと思います。
|
|