価格交渉を有利に運ぶには、不動産見学時のここがポイント
「値段交渉以前に、あの方にだけは買って欲しくないんです!」
ある中古住宅の価格交渉を打診するため、売主様に電話をかけたときのことです。この奥様のいきなりの一言に、しかし内心「やっぱり…」と思わざるを得ませんでした。 事の顛末は数日前、この売主様のお住まいに買主様をご案内した時のことです。 家に入るなり、 「どうして売却することになったんですか? 近所づきあいでトラブルでも?」
さらに、 「退去するときにカーテンや照明、エアコンを持っていくなんて常識外れで、通常は置いていってもらうものだから、100万円は値引きして当然」( ※注:退去時にカーテン、照明、エアコンは売主様が必要なら持っていくのが普通です) 「築年数の割に程度がいまいち」 「駐車場に車が入りにくい」
等々。いきなり矢継ぎ早にまくし立てられて、売主様の奥様もすっかりうろたえていらっしゃいました。こちらもひやひやしながら案内を終え、売主様にご挨拶にいくと、その表情はこわばってみえ、明らかに買主様の言動に気を悪くされたご様子。せめて誠心誠意、丁重に謝罪を申し上げて社に戻りました。
数日後、買主様からご連絡が入りました。 「先日案内してもらった物件、100万円安くしてくれたら購入します」
さて、どうしよう。案内当日の売主様や奥様の表情を思い浮かべながら電話をすると、やはり想像通り、冒頭のお返事が…。そして電話を代わられた売主様ご自身も、 「値段のことよりも、あの方に買っていただくと、近所に程度の悪い家を買ったと言いふらしそうだし、あとから色々クレームを付けられそうだし…、他にもご見学いただいている方はいるのだから、わざわざ値段を下げてまであの方に売る必要はありませんので」
と言うなり、お電話を切ってしまわれたのでした。 件の買主様の思惑も、わからないではありません。見学の時にあまり気に入った素振りをみせると売主様に足下を見られてしまうので、あえて気に入らない素振りをし、後の価格交渉を有利に運ぼうと、つまりこれだけ悪い材料があるから値交渉するんだ、と思わせるための行動だったのです。中古住宅の仲介をしていると、ごくまれに今回の買主様のような行動をとる方をお見受けしますが、経験上、相手に悪い印象をもたれるばかりで、実際の価格交渉や契約がうまく進んだことは一度もありませんので、お気をつけいただきたいと思います。
もっとも売主様の立場で考えれば、それは明白なのです。売り手は一番高い金額を提示してくれる買い手と契約したいと思うものですが、それよりもなによりも、愛着を持って暮らしてきた自分の住まいを気に入ってもらえた、という実感を持っていただくことが、価格交渉に及んでは最も重要なポイントなのです。 なぜなら売主様が、これだけ気に入ってくれる人は他にいないだろうな、と確信を持てるほどの買主様なら、その提示する金額も物件の価値に見合った「最高値」かもしれない、とごく自然に解釈できるからです。自分の物件をまったく気に入っていない人間に、妥当な価値を算定することなどできるものか、と考えるのが人情というものでしょう。
その証拠に今回の事例と逆に、見学時のマナーが良くて得したケースならたくさんあります。たとえばある買主様が、売主様ご入居中の物件を見学した時など、 「わざわざ見学のために時間を都合して下さって有り難うございます」
と、手土産持参で売主様にご挨拶をされたところ、売主様がとても買主様を気に入られ、 「値段は相談に乗るので是非あなたにこの家を買ってもらいたい」
とまでおっしゃり、あとはトントン拍子に話が進んで、値段が下がったばかりでなく、新品同様のエアコンや冷蔵庫、さらに家具まで譲って頂いたり。他にも、まだ野菜を作っている途中の畑が売りに出ていたケースでは、買主様の、 「せっかく手入れして育てた野菜ですので、土地の引き渡しは、収穫が終わってからでも良いです」
との言葉がきっかけで、売主様の方からの申し出で土地の値段を下げて頂いた、など…。 と、これらは極端な例としても、物件の価格交渉に限らず、どんな交渉事も成功の秘訣は「相手の立場になって考える」ということでしょう。
皆様も、物件を購入するということは単に土地や住まいを買う、ということでなく、誰かの大事な持ち物を譲っていただくこと、というご発想をお忘れなく。「安い値段で買えたお値打ちなだけの物件」でなく、「気持ちのいい取引で入手できたお気に入りの物件」で、さわやかに新生活をスタートしていただきたいと思います。
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