契約後のキャンセルよりも契約前の熟考を
不動産の売買契約は解除権を伴うものですから、所定の手続きさえしていただければ、契約後であってもキャンセルは可能です。 買い主は手付金を放棄、売り主は手付金を返還した上同額の違約金を支払えば契約を解除できると、契約書にも書いてあります。これは双方にとっての正当な権利です。
しかしこれは、不測の事態に際して穏便な調停を行うための「保険」的制度に過ぎません。本来、契約というものは、『約束を守る』という当たり前の義務に基づいて結ばれるものなのです。
違約解除、という契約の決裂があります。 これは、一方が約束を破った場合、もう一方が契約解除の申し入れをして契約を破棄した上、限度額以内の損害を請求できるというものです。
ところが最近、契約前には一切存在しなかった条件を、契約締結後に突如提示して、 「条件が飲めないなら契約を白紙に戻す」 と、一方的に通達されるという事例があったのです。あいた口がふさがらないとはこのことです。契約を交わした後になって、 「条件が飲めないなら契約を白紙に戻す」 などと言われてハイと言いなりになる仲介業者が、どこにいるでしょう。世の中には、そんないい加減な契約を交わすような業者は存在しない、と信じたくなる瞬間です。
消費者保護の風潮が強い現代、メーカーとユーザーの関係は、疑似主従関係とまで言えるところに来ています。これ自体は、とても良いことだと思います。 しかし不動産契約の当事者、つまり、売り主と買い主の関係は、それぞれに対等の立場でなければいけません。どちらの立場が上、ということではないのです。不動産契約というのは、大人の責任を伴った五分と五分の真摯な約束なのです。
契約書にサインするということは、とても大きな責任を伴った約束をした、ということです。皆様にも、例え所定の手続き上は問題なくキャンセルが行えたとしても、自分自身の信用も同時に失った、というくらいの厳しい認識を持っていただきたいと思います。 買い手の権利として守られているに過ぎないことを、当然の行為と考え違いをしているお客様も、まれにいらっしゃいます。そういうお客様から、もう一方のお客様を全力でお守りすることが、仲介業者の一番の義務なのです。
何しろ手持ちのお金が不足しているならいざ知らず、万が一のキャンセルを見越して手付金を安く交渉しよう、などという態度の方もいる始末なのです。そのような人を相手に、忙しい時間を割いて真摯に交渉したり、大事にやりくりして溜めたお金を預けたりすることができるでしょうか?
繰り返しになりますが、不動産取引は売り主買い主双方が対等の立場で行う、大人の約束です。約束を破るのは「うそつき」のすることです。 深く考えずに契約を結んでしまって、後になってから思い違いに気付いて、交わした約束を簡単にキャンセル、ということのないように。
あらかじめどんなことでも仲介業者に相談して、万全の態勢で本番に臨んでいただきたいと思います。
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