境界問題と不動産業者
今回は、物件における「隣地からの越境物」についてお話ししたいと思います。
先日、物件調査のため敷地内をよく見ていくと、境界付近に植えてある木が数年に渡ってかなり伸びており、本物件に越境している状態でした。そこで、物件と物件の間にあるはずの境界杭を確認できれば、越境の状況が把握が出来ると思い、早速、隣地の方に尋ねることにしました。
と、立ち会ってくださったお隣さん、二カ所あるはずの境界杭のうち一カ所がどこにあるか分からない…、と言われるのです。私も周辺を探してみたのですが、境界杭らしい物は見あたりませんでした。 その方はさらに、
「以前、本物件の所有者と共同でお互いの境界線上にその木を植えた」
と主張されました。私は疑問に思って、
「確かに昔はお互いの境界線上に塀を建てることもありましたが、それがこの木ですか?」
と言いました。するとお隣さん曰く、
「お互いの庭師さんが同じだったから…」
とのこと。なるほど、納得できるお話なのです。そこで私が、
「本物件内に新しく塀を設置する場合、こちらの費用でその木を撤去してもいいですか?」
と言うと、お隣さんが、
「それでは我が家の木がなくなるから困る」
とおっしゃったので、
「では、本物件内の方に越境している部分だけでも切ってもらえますか?」
と聞くと、
「それも出来ない! 切るなら我が家の木が枯れないように切ってほしい」
と…。なかなか、一筋縄ではいかないお隣さんなのでした。
民法の規定では、地上に越境したものはその所有者に撤去を要求できることになっています。木の根っこなど地下からの越境は勝手に切ってもいいのですが、地上物の場合はたとえ枝一本でも勝手に切ることはできません。ただ、民法の規定通り、相手に切らせることはできますし、その費用は相手持ちが原則です。
しかしこうしたトラブルについて、私たち仲介業者が間に入った場合、民事訴訟などの手段を取ることは滅多にありません。その後の売り主様と買い主様の人間関係に響きかねないからです。粘り強く間に入って説得するのが、普通なのです。 今回のようなケースなら、不明になっている境界杭を見つけたり、物件所有者に確認したりすることで、何らかの解決法を見つけることができると思います。
大切なのは、明らかに強引な交渉をしたり、不誠実な態度を見せたりすることがないように気を付ける、ということです。 なぜなら、その物件を購入し、生活していくのは私たち業者ではなく、買い主様ご一家なのです。お隣さんと精神的に衝突させるようでは、仲介業者として失格です。
道理に合わないことを言われても、我慢、我慢で粘り強く交渉していくこともまた、不動産業者の務めと言えるのです。
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